同期テロ-86

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『弟がいました』
過去形が意味するのは、故人である事に留まらない。河守が辿り着いた解を、声の主も体験している最中だ。
『正しくは、いたはずです。弟だった事も、何処で何をしていたかも浮かびます。ですが、彼が幾つで、どんな姿だったか判らない。名前も出なくなった。もう戻らないと判るだけです。明日には、全て消えているでしょう』
『残念ですが、俺はお力になれません』
責める口調でない事が、一層苦しい。
拳銃が手元にある。彼の最期に河守は立ち会った。声だけが耳に残る。――どう消えたかは、もはや霧の中だ。
『静観などしません。少なくとも、現場は追い続けています。私が貴方に行き着いた事も、意味があると信じます。今この瞬間は、決してゼロにならない。それをお伝えしたかった』
河守はすっかり涙脆くなった。
『俺からも、お伝えする事と、お願いしたい事があります』
独りではなかった。世界は河守の敵ではなかったのだ。
SF
公開:19/10/09 23:21

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。

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