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9月中旬のある週末、私は両親とT 市の外れの丘にのぼった。遠くの山並みまで見渡せて気持ちがいい。元々は何もないところだったが、地域の住民が花を植え始め、いつしか季節ごとに色々な花を楽しめる花の丘になっていた。ちょうどコスモスの季節で、細くしなやかな緑色の茎の先に咲く、薄いピンクや赤や白の可憐な花が、秋晴れの空に美しかった。肩の高さまですくすくと育ったコスモス畑の中をゆっくりと散策していると、ふいにコスモスが途切れて半径1メートルほどの空き地に出た。丸くぽっかりとできた空き地はモスグリーンで、花の名前を書くための小さな木製のプレートが立ててある。植えた花の名前を確認しようと父はプレートの方に屈みこんだ。「モスモス、これ、モスモスだって。」私達の方に振り返った父が、バランスを崩して転倒。「あっ!」声に反応するように、地面を覆う苔がぶわっと胸の高さぐらいまで伸びて、ふわふわと父を包み込んだ。
公開:23/09/25 09:15
更新:23/09/25 09:46
更新:23/09/25 09:46
初投稿は2020/8/17。
SSGで作品を読んだり書いたり読んでもらえたりするのは幸せです。趣味はほっつき歩き&走り(ながらの妄想)。
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