桜貝

　桜貝の細工物は、春のお護りとして人気が高い。私も春になると、桜貝を使った商品を売り出すようにしている。
　桜貝は時々、桜の花弁に化ける。桜貝ばかり入れているはずの小瓶に、桜の花弁が混じっていることがある。手に取って、匂いを嗅いだ時に、潮の香りがすれば、それは桜貝が化けているものに違いないのだ。
　桜に化けた桜貝は、数年に一度の頻度でしか見かけない。これは桜貝自体に魔力が宿っているものなので、とても貴重だ。
　もちろん、他の桜貝のように細工物にしてもいいのだが、やはり自分よりも器用な魔女に扱って欲しいという思いもあり、なにも加工せずに売りに出すことの方が多い。
　今年も一枚だけ、桜に化けた桜貝を見つけた。潮の匂いが濃い。長い年月、海に洗われ続けていたのだろうか。
　早速売りに出してはいるが、まだ買い手はついていない。