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ごくごくと爺ちゃんが旨そうに呑むそのビール。目を盗み、そのグラスに唇をつけた。
呑むというより舐めたそれ。とてつもなく苦く、慌ててコーラーで口の中を洗い流した。
お前にはまだ早い。大人になったら一緒に呑もうな。
豪快に笑い、その手で頭を撫でられた。
大人になり、気のおける仲間と何度も呑みに行った。はじまりの一杯はもちろんビール。苦いその味は、いつしかごくごくと喉を潤す味に変わっていた。
だけど、爺ちゃんと一緒に呑もうという約束は、まだ果たせていない。
爺ちゃんは入退院を繰り返し、会うたびに枯れ枝のような身体になっていったからだ。
──今度の連休、爺ちゃんに会いに来てくれないかしら。爺ちゃんが元気なうちに──
おそらくこれは爺ちゃんの最期の晩餐になる。名物の珍味に爺ちゃんが大好きだったビールを買い込み、電車を乗り継ぎ爺ちゃんちに向かう。懐かしい山々が見えたとたん、その視野は霞んだ。
その他
公開:25/11/09 15:32

大西洋子( 滋賀 )

ショートショート、童話中心に活動しています。

ショートショートガーデン空想競技2020入賞


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