終末のビール

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文明が崩壊して数百年。
人々は、前史の遺産で慎ましやかに暮らしていた。

ある日、男が書物で、ビールなるものを発見した。
幸福を生むというその再現に試行錯誤を重ね、ついに完成させた。

男は仲間と共にビールをカップに注ぎ、口をつけた。
製法は合っているはずが、ぬるくて苦いだけで美味くはなかった。

書物を読み直すと、見落としに気づいた。
ビールは缶か瓶に封入し冷やす。激しい運動をした後に飲む、等だ。
製法と関係ない記載もあったが、全て試すことにした。

缶に入れたビールを川で冷やしてから、その日の作業に出かけた。
普段よりも多くの仕事をこなし、疲れきって戻った男たち。
ビールを手にとり、缶のプルタブを引いた。

ぷしゅっ。

その音を聴いた男たちの喉がごくり、と鳴った。
夢中で缶に口をつける。
ごく、ごく、という音が重なる。男たちに笑顔が広がり、缶をぶつけ合った。

ビールが、蘇ったのだ。
ファンタジー
公開:25/11/08 13:31

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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