狸通り

0
1

僕達の名前を呼ばれることはなかった。
青春ってやつが今、終わった。

それからというもの、いつもの馴染みの店で毎晩飲み明かしていた。
終わってみればどうということはない。同じような人間は腐る程いる。
結局のところは理解し、納得するための時間だったのだ。

中央通りから三つ目の信号を右に曲がった細い路地。
ここだけは時が止まったかのように、懐かしい佇まいの建物が立ち並んでいた。
また今日もこの店で飲む。
いつものように。

ただし、隣に見知らぬ女性がいることを除いては。
「映画を作ってたんだって?」
「ええ。研究会とは名ばかりのサークルみたいなもんで」
二時間ほど話し込み、連絡先を交換して別れた。

あれから一ヶ月ほど経って、何度か連絡してみたものの、返事はない。
もしかしたらあの通りに化かされていたのかもしれない、と思いながら角を曲がる。

また今日もこの店で飲む。
いつものように。
青春
公開:25/10/13 01:50

久我由宇

くがゆうと読みます。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容