コーヒーの向こう側

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海外で働く友達が一時帰国して、ランチに誘われた。
休日は家でごろごろしてばかりだけれど、せっかくなので出かけていった。

帰り際にお土産をもらった。
陶器のマグカップで、店のものらしいロゴが描かれていた。
コーヒーを入れて飲むと、波の音が聞こえてきた。潮の匂い、風の匂いまで感じられた。

日により、聞こえる音や感じる匂いが変わった。
旅しているようで、夜にコーヒーを飲むのが日課になった。

ある日、話し声に挨拶をしてみると、返事があった。顔も知らない誰かと小一時間、話をした。
仕事のこと。恋人のこと。家族のこと。今いる場所のこと。

しばらくして、あたしは旅に出た。
数日の彷徨の後、目的地のカフェを見つけた。マグカップに印刷されているのと同じロゴが、看板に描かれていた。

数ヶ月後、あたしはそのカフェで働いている。
この店の音と匂いに癒され、いつかまた来てくれますように、と願いを込めて。
ファンタジー
公開:25/10/04 12:10

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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