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 取引先の会社を出てすぐ、私の全身から汗が吹き出した。取引相手の部長と社員の名前を間違ってしまったのだ。これは大失敗だ。部長の顔は引き攣っていた。これで先方との長いお付き合いは終わるだろう。
「いや、まず謝罪だ」
 社に戻る時間も惜しくて、私はその場で電話をかけた。
「あ、〇〇ですが、先程は……」
「あー、〇〇さん?先程はどうもー。」
 さっきの、社員さんの声だ。なんだか無理してかしこまっているような声だな。それに電話の向こうが騒がしい。やはり部長がカンカンなんだ!
 やってしまった、と、この世の終わりのように落ち込んでいると、社員さんが酔っ払ったように言った。
「いやー、あなた、なんですか。魔法使いですか。あなたが名前を間違ったお陰で、私、ヒラから部長に格上げしちゃいましたよ」
 どうも、ありがとうございますー。と、社員さんは嬉しそうだが、想定外の事態に私は混乱していた。
公開:25/10/01 11:51
更新:25/10/01 12:12

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