吾輩は本である

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吾輩は本である。
タイトルはまだない。著者もいない。

真っ白な裁断前の紙ロール。それが吾輩だ。

吾輩の体は、どんな文章で埋め尽くされるのだろう。
インクの匂い、糊の匂い、人のざわめき。
夢想の日がどれほど続いただろうか。

ついに、その時は訪れた。
吾輩は機械にセットされ、印刷が始まった。
さあ、どんな本になるのか。
小説か、ショートショートか、学術書か。
期待が高まる。

──けれど。

吾輩は文房具店の棚に置かれた。
そう、吾輩はノートになった。
その落胆たるや、筆舌に尽くしがたかった。

そんな吾輩だが、ひょんなことで夢が叶った。
吾輩を買ったくれたのは、小説家志望の少年だったのだ。
彼の手によって、吾輩の体に物語が綴られていく。
まだ拙い、荒削りもいいところ。
だが──これが、これこそが、真に吾輩が夢に見たもの。

吾輩は、物語の生まれる大地となったのだから。
ファンタジー
公開:26/01/17 14:37

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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