3番目の引き出し

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 母の使っていた洋服箪笥。右側3番目の引き出しを未だに開けていない。

 1年前に母が急死し、最後の身内である僕が遺品整理をした。もともと綺麗好きな人だったから早く片付いた。箪笥に付いた色んな汚れを布巾で拭き取りながら、思い出す。
 子どもの頃一度だけ、好奇心で箪笥を開けていた時。母は困ったように笑っていたが、3番目の引き出しに手をかけた所で腕を掴まれ『ここは駄目』とだけ言われた事を。
 それ以来開けていない。

 葬式には母の知人達が来てくれた。
 挨拶を交わす中、何人かから同じ事を聞かれた。

 『何か隠しているものはないか?』と。

 『噂だと思っていたが本当なのか?』
 『これで何人目だ』
 『何かあるんじゃないか?』

 皆口々に聞いてくるので、僕は答えた。

 『何も隠してませんよ』

 3番目の引き出しは未だに開けていない。
 開けたらきっと、皆と同じ事になるだろうから。
ホラー
公開:25/05/08 14:36
更新:25/05/08 14:37

甘露

真面目にのほほんと書いていけたらと思っております。
下手の横好きですが、宜しくお願い致します。

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