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 運転手が呟く。あのおばあさん、大丈夫だったろうかと。
『ホント、心配だね』
 応えるのはこのバス。回送いや、回想バスだ。回想バスは一日の業務を終えて車庫に帰る時、ざっと一日の反省をする。今日は三人、気になるお客様がいた。
 一人は最後に降ろしたおばあさん。乗っている間ずっと立っていたし、降りる時など段差でつまずいた。足は挫いていないだろうか。
 一人は赤ちゃん連れのお母さん。そんな人にも、周囲の人間は冷たかった。
 そうして最後、制服を着た女の子はどうやら受験生。バスの中で勉強をしていたけれど、同乗しているお父さんが絶えず話しかけていた。娘が可愛いのは、わかるけどさ。
『僕も同じだもの』
 バスはつぶやく。
『僕は君が心配だよ、運転手くん』
「それよりおれを心配してそうだよな、このバス」
『お、わかってんじゃん』

 言葉の通じない運転手と通じ合えると、回想バスは回想を終えるのである。
公開:25/03/31 19:31

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