ソーイング

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 人通りが絶えた暗い道。カーブミラーがひっそりと泣いていた。過疎化の進むこの町で、もうどれだけ人に会っていないか。
 寂しさにカーブミラーはめそめそ泣いた。めそめそ、めそめそ。泣いているうちに、肌がピキピキ、ひび割れ始めた。
「私ももう……。せめてもう一度、誰かを写したかったな」
 その嘆きを聞いている者が、1人だけいた。ちょうどミラーの足を上へ上へと這っていた一匹の蜘蛛だ。蜘蛛はミラーの声を聞くと、「ちょっと待って!」と声を上げ、足を速める。そうしてあっという間に鏡面にへばりつくと、蜘蛛の糸をそこに伸ばし始める。
 ピキ、シュー。ピキ、シュー。
 ひび割れるそばから縫われていく鏡面。ミラーはおっかなびっくり、口も聞けない。
「綺麗だね、ミラーさん」
 声をかけたのは、照りつける太陽。ミラーが写したのはその太陽と、太陽と同じに四方に足を伸ばす蜘蛛だった。
 第二の人生の始まりである。
公開:25/06/30 00:36
更新:25/06/30 00:40
ネモフィラさんごめん カーブミラーの幕引きが悲しくて 勝手に続きを 書いちゃいました

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