紫陽花が泣いた日

　近所に紫陽花が咲く家がある。
　毎年この時期になると、青や紫、白といったたくさんの紫陽花が美しく咲いている。

　いつも学校へ向かう途中、前を通る。
　鮮やかな花びらを眺めていたら『おはようございます』と声をかけられた。
　
　この家の奥さんだ。
　旦那さんに先立たれて、今はひとり暮らしってお母さんが言ってた。

　びっくりしながら『おはようございます』と返したら、奥さんは笑顔になった。

　しとしと雨が降る中、紫陽花を見る。
　雨粒を纏った紫陽花達がきらきらしていて、なんだか生き生きしているように見えた。
　雨は嫌いだったけど、これからは好きになれる気がした。


　数日後、お母さんから奥さんが亡くなったと聞いた。

　
　しとしと雨が降る中、いつも通り紫陽花の家の前を通る。
　
　変わらず鮮やかに咲き誇る紫陽花達。
　でも雨露に濡れた姿は、涙を流しているように見えた。