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 夕刻、香ばしい匂いに空を見上げると、一筋のもやが揺蕩っていた。
「なんだ、あいつ、まだ二十歳にもならんくせに、もう絵葉巻に手を出したか。いい度胸だ」
 むっつりして言うと、茶を運んできた母さんが言う。「あの子はもう二十歳ですよ。二十歳と一カ月です」
 その声は手の中の茶より冷たい。私は咳払いをして空を見上げる。
 絵葉巻。それは葉巻のお便り。その煙に送り主の顔や居場所を乗せ、その人の思いを運ぶ。
「家出したあいつも、里心がついたか」
 呟くとまた、
「あなたの方でしょう?家出したのはーーわたしといっしょに」
 この女、恥ずかしいことまで覚えていやがる。不機嫌になり、居間に戻る。
「あ……」
 背後で母さんの小さな声。振り向くと、目が合う。
「さすが、親子ですねぇ。こんなところまで、手が早いだから」
 煙の中であいつと、可愛らしい女性が身を寄せ合って、笑っていた。
公開:25/06/05 12:23

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