スマホの子

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私の家には、母が残したスマホがある。
古いモデルだが、まだ立派に動いていた。

母は亡くなる直前、スマホとのなれそめを教えてくれた。

社会人なりたての頃、買ったそうだ。
契約時に拇印を押し、妙に古めかしい契約書を書かされたという。

機能豊富で使いやすく、何年も使い続けた。
しかしスマホの世代交代は早く、新機種が毎年が出回った。
それでも母は、このスマホを手放さなかった。

何度か、機種変更を考えたこともあったそうだ。
店に行って最新機種を触ってみるが、しっくりこない。
機能は少ないし、見た目も古くなったスマホが手放せなかった。
そうして母は、一生を添い遂げたのだ。

この話の最後に、母はヒミツを教えてくれた。
スマホとした契約は、婚姻だったと。
一目惚れだったのよ、と少女のようにはにかんでいたのを覚えている。

──そう。
私は、人間の母とスマホの間に生まれた子どもなのだった。
ファンタジー
公開:24/10/08 10:06

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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