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 包丁を研いでもらおうと、行きつけの刃医者に向かう。
「これはまた、ずいぶんと大胆に刃が欠けていますね」
 受付嬢は遠慮もなく笑う。恥ずかしさに顔を落としつつ待っていると、先生に呼ばれた。で、ここでもやはり笑われる。しかしその顔をすぐに引き締めた医者は後ろの棚からたいそう立派な砥石をいくつも取り出し、鮮やかに治療を施していった。
「これでまた、料理の腕を奮えるぞ」
 喜びとやる気に腕を捲る俺は料理人。鼻息も荒く我が城に帰る。と、喜んだのは束の間のことだった。切れ味の良くなった包丁で、俺は怪我をしまくった。
「どうしてだ?どうして俺がこんな失敗を繰り返す?」
 おもわず包丁を見つめると、包丁の刃がキラリと光った。それはまるで、
「私も痛かったんだぞ、刃医者」
と抗議しているようだった。
公開:24/09/14 17:35

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