発泡弾

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 ポンと軽やかな音が弾け、銃口から止めどなく泡が溢れる。
「なんだこれは⁈」
 うわずる上官の声に感応するかのように銃という銃から泡が溢れ出し、ある者は気が置けない仲間と飲み交わした酒の味を、ある者は幼い頃飲んだ炭酸飲料水の触感を、またある者は懐かしい故郷の磯の香りを思い出した。
「これでは銃が使えません!」
 部隊のあちらこちらから、悲鳴に似た声が沸き立つ。
 何時だったか、最前線から転戦させられた部隊の者から聞いたことがある。発泡弾と呼ばれるそれを。
 海の泡で製造されたその弾丸は、人間の子どもの喜びと哀しみの涙に囚われた人魚姫のそれだと。
 その弾丸を発砲すると、どんな大砲であれ銃であれ泡まみれになり、使用できなくなると。
 上官は、その上官を束ねる者は耳にしているだろうか。最前線の部隊の多くは逃走し、逃走を許されない部隊に発砲弾を送りつけている事実に。
 ──泡がまた一つ増えた。
その他
公開:24/08/25 10:30

大西洋子( 滋賀 )

ショートショート、童話中心に活動しています。

ショートショートガーデン空想競技2020入賞


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