黒歴史ビール(いまだ熟成中)

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その店の黒ビールを飲むと、今となっては懐かしいかつての恥ずかしい振る舞いや言動といった黒歴史が脳裏に浮かんできた。
「このビールを飲むとなぜ黒歴史が思い浮かぶのかな?」という俺の問いにダンディなマスターが答えた。
「そのビールには私の黒歴史が溶け込み、熟成されているのです」
「あなたの黒歴史が?」
マスターは頷くと語りだす。
「私は思春期の頃から心に抱いていることが漫画のフキダシのように白い泡の中に文字となって頭上に浮かぶようになりました。それ以来、なるべく本心を隠して生きてきたのですが、あるとき閃いたんです。この泡を使ってビールを作ろうと」
「それがこの黒歴史ビールなんですね」
マスターは頷いた。
「なるほど。黒歴史が熟成されたことで苦味とコクのある人生そのものの味がするわけか」
ニヒルに笑うマスターの頭上にふわりと浮かぶ泡の中に「褒められたぴょ〜ん! 超うれぴぃ♡」という文字が現れた。
ファンタジー
公開:24/09/01 23:58
更新:24/08/31 18:14
クラフトビールコンテスト②

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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