あみだくじ

10
7

 家に帰ると、腹の大きな男が玄関先であぐらをかいて座っていた。男は言う。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お勤めご苦労様で御座います」
「え、あ、いえ、ども……え?」
 律儀に挨拶をするのだから、泥棒などの類ではなさそうだ。そう思って男がいる理由を問うと、こう言われた。
「私、布袋、と申します。このたび阿弥陀様より仰せつかり、あなた様に福をもたらすべく、参上仕った次第で御座います」
 言いながら見せてきたのは、あみだくじだった。
「つまりこのあみだくじで、あなたが私のところに行くのが決まったと?」
 人の運を遊びで決めるって、なにしてんだよ、神様。
「つきましてはこの一年、私があなた様に福をお運びいたします。どうぞよろしゅう」
 たおやかな姿に、心がほぐれる。
(まあ、毎日をうまく生きるヒントにはなりそうだ)
 笑うことが下手なおれは、布袋様の柔和なお顔を見て思ったのだった。
公開:25/01/30 18:57
更新:25/01/30 19:05

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容