桜の吐息
9
8
うちの庭には、不思議な桜の木がある。
その桜は、いつも満開にならない。
その桜は、5月ごろか、年末にいちばんの見頃を迎える。
だけどたった一度、夏真っ盛りの暑い最中に咲いた年があった。咲き誇った。
「見て、パパ!桜がキレイ!」
当時の私ははしゃいだ。たしか10歳だった。はしゃぐ私を、パパはどんな思いで見つめていたのだろう。その年のパパはため息をつくことが多かった。そしてそのため息がまるで白い龍のようにうねりながら木の周りを登り、それが桜となることを知ったのは、さて、いつのことだったか。
「すごい!すごいね、パパ!私もできるようになるかなっ?」
パパと桜の秘密を知った私は、中学生になっても無邪気にそう言っていた。
「ため息ばかり吐く人生にするな」
静かに言ったパパ。たぶんあれは、怒っていた。
ママが出て行って、もう何年に、なるだろう。
その桜は、いつも満開にならない。
その桜は、5月ごろか、年末にいちばんの見頃を迎える。
だけどたった一度、夏真っ盛りの暑い最中に咲いた年があった。咲き誇った。
「見て、パパ!桜がキレイ!」
当時の私ははしゃいだ。たしか10歳だった。はしゃぐ私を、パパはどんな思いで見つめていたのだろう。その年のパパはため息をつくことが多かった。そしてそのため息がまるで白い龍のようにうねりながら木の周りを登り、それが桜となることを知ったのは、さて、いつのことだったか。
「すごい!すごいね、パパ!私もできるようになるかなっ?」
パパと桜の秘密を知った私は、中学生になっても無邪気にそう言っていた。
「ため息ばかり吐く人生にするな」
静かに言ったパパ。たぶんあれは、怒っていた。
ママが出て行って、もう何年に、なるだろう。
公開:24/12/22 06:00
ログインするとコメントを投稿できます