滝

　薄く水が溜まる沢の中で、老人が腕を上下左右に伸び縮みさせている。声をかけると、老人が振り返って言った。「滝を作ってるんでさあ！」
「滝？滝というと、あの滝？」
「見ていてくだせえ！」
　老人はそう言うと、先ほどのように腕を動かし始めた。よく見ると、手にはしらたきを持っている。と、みるみるうちにしらたきが伸び始めたではないか！上へ上へ、それはだんだんと滝の形状を成していく。そしてあっという間にしらたきから大瀑布へと変わってしまった。俺は驚き、感嘆の声をあげた。「すごいですね！でも、消えたしらたきはもったいないですね」
「大丈夫でさ。この滝も、やがては干上がります。そうすっとしらたきに戻るんでさ」
「そうなんですね。でもなぜしらたきの滝を作ろうと思われたんですか？」
　すると老人は無邪気に笑って言った。
「村あげての大すきやき会をするんでさ！しらたきが好きなもんで、大量に用意したくてね！」