空気を食べる犬

家主に対面したおれは、開口一番、こう言った。
表のあれはなんだよ？ーーって。
「ああ、あれね」
　家主は言って、手に持っているロープを引っ張る。ロープの先には、小さな可愛らしい犬。
「いや、お前も知っての通り、おれら夫婦ってけっこう仲悪いだろ」
「ああ、そうね」
「それで悩んでいた時に紹介されたのがこいつでさ。なんでもこいつ、空気を食べる犬、らしいんだ」
「空気を食べる？なんだそりゃ？」
「ほら、いうだろ？夫婦喧嘩は犬も食わないって。あれの逆。こいつは場の悪い空気を食べて、人の仲を戻してくれるんだ」
「ふうん、なるほどね。それならむしろ、こんなことするなよ」
　言うなりオレはしゃがみ、犬の口を縛っている布を解こうとした。
「あ、やめろ！」
　もう遅い。オレは布を解かれた犬に咬まれてしまった。
「言ったろ？悪い空気を食べるって。それ食べ過ぎてこいつ、すっかり凶暴になっちまったんだよ」