酔い止めの薬

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「いいんですか?こんなところで油売ってて」
 飲み屋の旦那が言う。俺は既にぼやけた視界で旦那を睨め上げ、
「いいんだよ。どうせ帰っても、どうにもならねえ」
 と突っぱねる。周りの客は苦笑。見慣れた光景ってわけだ。
「まったく、この時期になると、いっつもこうだ。はい、これ!酔い止めの薬やっておきますね!」
「酔い止めの薬?そりゃ効かんだろう。酒酔いには」
 と、隣の客。
「大丈夫ですよ。これは夜が明けない薬、宵止めの薬ですから」
「宵止め。ああ、なるほど、明日締め切りか!」
「さあ、もう店終いですよ!みなさん帰った帰った!」


「よかったんですか、だんな。あんなこと言って。ただの飴ですよ、あれ」
「いいんだよ。どうせ酔ってて、なんにもわかっちゃいないんだから」
 旦那は笑いつつ、またあの作家は来るのだろうかとため息をついた。
公開:24/04/22 17:06

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