有燕地

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「今年も来たよ」
春雷が通り過ぎた翌日、今年も彼らがやって来た。
「すまない、まだ準備が整ってないんだ」
花冷えの準備をしながら、彼らへの挨拶に応える。
「それはいつものことだろ? 梅はもう咲いたぞ」
薄紅色の便りをちらつかされたら、もう急がずにはいられない。
初夏を思わせるような陽気と共に、彼らは大空に大きな円を、右に左に急カーブを描き、花散らしの雨風もものともせず、彼らは春風ジェットコースターになる。
そうして、梅雨の走りに変わる頃、彼らは地面すれすれを猛スピードで駆け抜けて、新たな生を育むのに忙しくなる。
じりじりと焼け付く太陽が昇る頃、彼らは若鳥を連れて住処を移し、その時を待つ。
「素晴らしい場所だったよ」
稲の花が咲き、穂が現れだしたら、彼らの旅立ちの合図。
「秋が来ないうちに去らないとね」
稲穂が垂れるとき、有燕地は水田食堂へと変貌する。
その他
公開:24/04/21 16:46

大西洋子( 滋賀 )

ショートショート、童話中心に活動しています。

ショートショートガーデン空想競技2020入賞


Twitter @yoko_egaku
note @yokomare

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