脳内遊園

仕事にのめり込むあまりにワーカホリックになっている夫のことを友人の明恵に相談したら、とある医者を紹介された。
夫に付き添って診察室に入るなり、医師は言う。
「人間には遊びが必要です。特に仕事中毒に陥っている患者さんの場合、遊びがなければ心と体に支障をきたし、深刻な病を引き起こしてしまいます」
曖昧に頷く私と夫に医師は続けて言う。
「そこで、脳の中に遊び場、つまりミクロの遊園地を外科手術によって埋め込むのです。何も心配はいりませんよ。極めて簡単な手術ですから」
なんだかよく分からないまま、いつの間にやら夫の手術が終わってしまった。
それ以来、いつも不機嫌だった夫の表情は柔らかくなり、笑顔も増えた。でも、一方でボンヤリすることも増えていった。
「ちょっと遊んでくるよ」
ある夜、夫はそう言ってベッドに入った。その寝顔は夢見る子供のように楽しげだった。

それから彼が目覚めることは二度となかった。