住宅展示場

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 春、3月。若いカップルが全身に幸せを纏って歩いていた。
「どんな家があるだろうね?君はどんなのがいい?」
 男の方が言えば、
「私は贅沢は言わないわ。でもひとつ言うなら、清潔で使いやすいお台所が欲しいかな」
 女が甘えた声で返す。
「うん、それはそうだ。台所は、女性の城だからね」
「あら、そう決めつけてもらっては困るわ。女が料理をするなんて考え、もう古いのよ」
 女の言葉に息を呑む男。女はすぐに微笑む。
「ふふ。そういうあなたは?なにか希望はないの?」
「ぼ、ぼくかい?ぼくは、そうだね、心地よい部屋が欲しい。香り高い畳の部屋がね」
「畳の部屋かぁ。いいわね」
 女の笑顔に、男も微笑む。2人の間に幸せの花が舞っている。

「あのー、申し訳ございませんが、お化け屋敷は住宅展示場ではなくてですね……」
 本物のおばけに驚く係員の言葉に、幽霊カップルの幸せの花ははらはらと舞い散っていった。
公開:24/03/20 16:08

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