しだれ蕎麦

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 春、3月。宏太くんたち家族は桜の名所として知られる公園に来ていた。
「いい?4月から、この道を歩いて学校に行くんだからね。ちゃんと道を覚えなさい」
 お母さんの言葉に、グッと固まる宏太くん。お父さんは気遣わしげに
「まあまあ、お母さん。今日はまず、楽しく引越し祝いとしようや。な、宏太」
 それからお父さんは、こんな話を始めた。
「ところで2人は、この桜の秘密を知っているかな?」
「ひみつ?」
「ああ。この桜、枝垂れ桜というんだがね、と、言っている間にほら」
 目の前に、桜色の何かが落ちてきた。お父さんが器をかざすと、それはお蕎麦に変わった。
「ほら、祝いの蕎麦だ。桜からのプレゼントだよ」
 お父さんは笑うと、空を振り仰いだ。
「ありがとう、桜さ……わぁっ!」
 お父さんが突然悲鳴を上げる。その顔には、樹液という、桜のよだれが垂れていた。どうやら桜も、自身で出来た蕎麦を食べたかったようだ。
公開:24/03/15 19:36
#研究室ライブ 蕎麦を振る舞う桜

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