心を洗う

たまに、心を洗う。石鹸でだ。
きっかけは父さんからの誕生日プレゼントだった。
「これはな、心を綺麗にしてくれるんだ」
真っ白でハート型の石鹸はいかにも胡散臭かった。
手渡されたとき、僕は「いらない」と断った。心の汚れを見透かされたような気がしたから。
でも父さんは、その思いすら先読みしたみたいに笑ってこう言った。
「毎日風呂に入って体を洗うのに、なんで心は洗わないんだ？　ずっとそのままにしてると、固まって落ちにくくなるし、強烈な臭いを出し始めるぞ」
なおも渋る僕の手に、父さんは石鹸を無理矢理握らせた。
「生きていたら、体も心もあちこち汚れちまうのは当たり前。それは頑張って生きている証さ」
泡を体に滑らせると、憎しみや嫉妬の感情が、しゅわしゅわと溶け出していくみたいだ。シャワーで洗い流すと、スーッと胸が軽くなったように感じた。バスタオルで体を拭き、身支度を整える。
さあ、今日も一日が始まる。