ハッピー泡ー

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今年もダメだった。医学部合格のため努力してきたのに。
肩を落とし歩いていると、
「ただ今ハッピーアワー中です」
という声が聞こえた。僕は今年でニ十歳。合格していれば、今頃祝杯をあげていたかもしれない。
「お兄さんどうですか?」
「気分じゃないんで」
「落ち込んでいるときこそ泡ですよ」
泡?
看板を見ると、『ハッピー泡ー』と書いてある。
「どうぞ」
店員に手を引かれ店に入った瞬間、大量の泡に包まれた。と、同時に様々な映像が浮かび上がってきた。
工学部に入りロボットを作っている自分。
留学してアートを勉強している自分。
寿司屋に弟子入りして懸命に働いている自分。
どの僕もとても楽しそうだ。
「お医者さんになるだけが、幸せな未来ではありませんよ」
喜びと期待が泡のようにむくむくと大きく膨らんでいった。
しばらくするとパチンと音がして、店と店員は消えてしまった。でも、心に灯った明かりは消えない。
青春
公開:24/07/29 18:07

結城熊雄

「言葉であなたの心にそよ風を」をテーマに日々様々な創作に挑戦しています。
プチコン「旅」優秀賞作品 『30秒旅行』 
https://short-short.garden/S-uCTuvb

受賞歴など:https://note.com/yuki_kumao/n/n3e3a08e4b3c3
Twitter:https://twitter.com/yuki_kumao

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