網戸越しの恐竜

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 ヒャッ!
 娘が声を上げた。隣室で洗濯物を畳んでいた私は驚いて駆けつける。「どうしたのっ?」
「ま、窓の向こうに…」
 娘の指の先を追う。「ああ……」と安堵のため息。が、私の返答は一歩遅かった。学校から帰ってきたお兄ちゃんが言ったのだ。「おお、あれは恐竜だ!」と。とたんに目を輝かせる娘。私は先ほどとは違うため息をつく。
「お兄ちゃん……」
「いいじゃないか。楽しそうなんだから」

 あれから何年の月日が経ったろう。子供たちは巣立っていき、それぞれ考古学者と恐竜博物館の職員となった。網戸越しの恐竜はちゃんとヤモリに戻っておそらくどこかで元気にしているだろう。
 子供達が立派に育ってくれたのもヤモリのおかげだと、私と主人は笑い合った。
公開:24/07/22 17:42
窓越しにいたんです あんなに大きいの 初めて見た

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