The Tower of Bubble

株や不動産、暗号資産に至るまでバブルが起きる度に売買を繰り返して、気づけば巨万の富を手にしていた。とはいえ、俺にはもはや物欲などない。さて、この泡銭を何に投じようか？
考えた挙句、自らの死後も存在し続ける世界遺産を残そうと思い至った。かといって、ピラミッドにしろ大宮殿にしろ物質である以上、時の経過による風化は避けられない。
そこで、コンピュータ・ネットワーク上にブロックチェーン技術を活用して構築する永久不滅のデジタル仮想遺産、〈バブルの塔〉を建設することにした。
人類の叡智ともいえる世界有数のプログラマーを雇い、急ピッチで仮想現実の塔の建設は進んだ。
完成に近づいたある日、電子の神とも言える人工知能に社会を混乱に陥れる危険なプログラムと見做され、サイバー攻撃の集中砲火を浴び、塔は脆くも崩れ去った。
俺の夢と理想は旧約聖書にあった『バベルの塔』の神話よろしく実に呆気なく水泡に帰したのだった。