般若の心境

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 ひさしぶりに晴れた、いや、正確には晴れているけど雨も降ってる、天気雨というやつだ。
 林道をとある行列が渡っている。先頭には白無垢を着たーー狐。花嫁側の行列だ。これから、婿となる男の家に向かう。
「天気が優れて、ようございましたね、嬢」
 狐の半歩後ろでそう言うのは、手にほおずき提灯を持つ鬼顔の男、般若である。
「そなたは優れぬようだがな、般若。どうした?」
 いつもはやさしい顔の般若の渋い顔を覗く狐。般若は顔を背けた。
 実は般若は、恋をしていた。誰あろう、狐の娘に。それが自分が娘の世話係として仕えているばっかりに、般若は娘を他の男の元に送る役目を担ってしまったのだ。
「なんということはありませぬ。角隠しのせいで私の顔がはっきり見えないのでございましょう」
 愛しい人のせいにした、精一杯の痩せ我慢。これ以来、般若の表情は固まり、よく知るあの鬼顔になったと言われている。
公開:24/07/05 18:35
更新:24/07/05 20:16
#SSGすみれ祭り

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