蝶ネクタイ

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 昆虫学者の友人から、蝶の標本をもらった。なぜ僕に?と聞くと、君にこそ必要だから、と言われた。不思議に思っていたが、答えはすぐに判明する。私はかつてバーテンダーをしていて、ずっと黒の蝶ネクタイをしていたのだが、仕事をやめてからも蝶ネクタイをしていた。首に何かないと、落ち着かないのだ。
「今日は何色の蝶ネクタイがいいだろうか」
 自由にコーディネートできるようになると、そんな悩みが出てくる。そんな時だ。「こちらでどうでしょう?」というように、蝶ネクタイが向こうから飛んでくる。標本の蝶は、蝶ネクタイだったのだ。
「これはいいものをもらったな」
 と、喜んでいたのは、初めのうちだけだった。極度の恥ずかしがり屋で地下のバーテンが似合いだった私は、今やイベントの司会に引っ張りだこの身だ。
 派手な色とサイズの蝶ネクタイを付けていたりするからである。
公開:24/06/20 05:52

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