駅員さんが背中を押す梅雨入り

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雨雲は、「前線」という電車に乗って各地に向かう。
南行きの前線は大混雑。梅雨入りが遅れているためだ。

若者がぽつんと立っているのが見えた。
定期でホームに入り、話しかけた。就職活動に失敗し、仕事がないという。
なんだ、そんなことか、というと、若者は俺を睨み付けた。

まぁまぁ、そう怒るな。
いいものを見せてやるからついてこい、とそいつの手を取った。
北に向かう前線で、着いたのは北海道。

梅雨の時期にも台風の時期にもまだ早いが、そろそろ春風を吹かせてもいい頃だ。
俺とそいつは協力して、南からの風を吹かせた。
雨を呼ぶほどの力は無いが、心地よい春の風が大地を撫でた。

俺と若者は、前線の駅員として、北の地に留まることにした。
場所を変えれば、やれることだって見つかる。

かつて俺も──そうやって背中を押してもらったのだ。
ファンタジー
公開:24/06/19 11:20
#研究室ライブ

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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