ラストピース

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港に降り立つと、爽やかな風が出迎えてくれた。

十月の終わり、瀬戸内の離島に来た。
島にあるビール工房が目的だ。

工房を見学させてもらい、お土産にビールを買う。
すると工場長が私を見て、こんなことを告げた。

──このビール、未完成なんですよね。

けれど滞在中、島で飲んだビールは、未完成とは思えなかった。

帰宅して数日。
旅行の余韻を味わおうとビールをあけた。爽やかなレモンの香りが広がる。
だが、苦みが強いことに気づいた。
別の日に飲むと、今度はかなり甘い。古くなったのだろうか?

日曜。
旅行の写真を見ながらビールを口にすると、また味が変わった。
旅行の記憶と共に、島で飲んだ味が蘇ったのだ。

工場長の言葉を思い出す。
このビールが未完成なのは、人が飲むことで完成するからではないか。

私はまた、あの島に行こうと思っている。
最高の材料を持って、最高のビールを味わうために。
ファンタジー
公開:23/10/30 10:24
更新:23/11/19 18:16

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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