題名のない展示会

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その美術展は、テーマがなかった。出品者はQRコードを出品する。それを撮影しないと、作品が見られないという仕組みだ。よって客の方でもスマホもしくはiPadなどを持参せねばならず、自然、客層は若者が多い。
 この美術展を企画した男は、自らも作品を出していた。だが彼の作品はフロアの端、照明をわずかに落としたところにあった。そんな所に作品があるなどとは、誰も気づかない。が、男はそれでよかった。
 男は、たった1人の客を待っていたのだから。

 数分後、1人の女性が怒っているとも、笑っているともつかない顔で帰っていく。フロア内には黄色い声と男の声。

「一生幸せにする!だから結婚してくれ!」
 男の作品が、しきりにそう喚いていた。
 
公開:23/09/19 17:50

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