鮭癖

「酒が足りねぇ！　酒が！」
「もうないよ！　まだ飲みたいなら自分で買いに行っとくれ！」
「なんだとテメェこの野郎！　誰のおかげでメシが食えてると思ってんだ！」
「メシを作ってんのはあたしだよ！　ろくに料理もできないくせしてなに言ってんだい！」
　夫婦はこんな調子で、毎日喧嘩をしていた。
　ある日、女はついに我慢できなくなり、家にあるビールを全部川に流して捨ててしまった。
　たまらないのは川の魚たちだ。はじめて飲むビールに悪酔いし、調子に乗って川を飛び出したり、ウケを狙って自分からわざと釣り人に釣られに行ったりした。
　熊にとっては好都合だった。なんせ簡単にエサにありつけるのだから。しかしそれが思わぬ弊害を生んでしまった。
「鮭が足りねぇ！　鮭が！」
「もうないよ！　まだ食べたいなら自分で獲りに行っとくれ！」
「なんだとテメェこの野郎！」
　鮭癖の悪い熊が森に横行したのだ。