ブルー・ホエール

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「蒼海の極み」と謳われるマリンブルーのエールビールがあるという。主な原材料は深い海の底に群生するウミオオムギの麦芽だ。その幻の美酒を醸造して味わいたいと俺は今日も深海へ潜る。
(やはり収穫なしか……)
諦めかけたその時、海の彼方から巨大なクジラの群れが泳いできた。
クジラ達に促されるようにそのうちの一頭の背に乗る。海中に射す日光に照らされ、その背に生えた毛が波打つように揺らめいた。それは体毛ではなく、蒼く輝く麦の穂だった。
(ウミオオムギ!)
俺はクジラの背の上に広がる瑠璃色の麦畑に抱かれていた。こんなところに群生していたとは……。
クジラ達が海面へと浮上しながら高く心地よい声で歌いだした。それぞれの鼻から吹き上がる潮が空に虹を架ける。海と生命の記憶に満ちた飛沫を浴び、俺は歓喜の声を上げた。
その白く泡立つマリンブルーの飛沫こそが俺の求めていた幻のエール、ブルー・ホエールに他ならなかった。
ファンタジー
公開:23/11/19 23:55
更新:23/11/18 13:57
クラフトビール

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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