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 ラベルに書かれた5%という文字を指でなぞる。頼む、今年こそ。祈るようにプルタブを引くと、カシュっと軽快な音をたてて缶の口が開いた。同時にホップの芳しい香りが鼻をくすぐる。奥底からゆっくり立ち昇ってくる、やさしくて懐かしいあの匂い。ハッとして顔を上げる。そこには彼女の姿があった。
「やっと引き当ててくれた」
 彼女はあきれたように微笑んだ。
 このビールは故人の命日に開けると、5%の確率でその人と会えるのだ。チャンスは年に一回だけ。それにしても二十年もかかるなんて。
「相変わらず運がないのね」
「運はきみに出会ったときに使い切ったんだ」
「また言ってる」
 あの頃みたいに僕らは笑いあった。でもやっぱり、僕は運がいいと思う。だって今こんなに幸せなんだから。僕はもう一本用意していた缶ビールの蓋を開け、彼女に渡す。
「僕らの再会に」
「私達の再会に」
 缶同士、触れると一筋の水滴が流れた。乾杯。
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公開:23/11/10 17:58

結城熊雄

「言葉であなたの心にそよ風を」をテーマに日々様々な創作に挑戦しています。
プチコン「旅」優秀賞作品 『30秒旅行』 
https://short-short.garden/S-uCTuvb

受賞歴など:https://note.com/yuki_kumao/n/n3e3a08e4b3c3
Twitter:https://twitter.com/yuki_kumao

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