創作薬局

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神保町に、小さな薬屋がある。
すずらん通りから一本入った路地にあって、江戸の昔から続いている名店だ。

漢方の町医者のようなたたずまいは、古めかしくも落ち着く雰囲気。
創作者のさまざまな症状に薬を出してくれるのだ。

売れ筋は、やる気が出る薬とアイデアが浮かぶ薬。
薬と言っても、飲んだらいきなり効果が出るようなものではない。
患者が主人に症状を話すと、店主はそれに応じて様々な処方をする。
本、レコード、お香や花など、患者が創っている物のヒントとなるようなものだ。

ところで、常連だけが購入できる薬がある。
それは『〆切に効く』薬。
ベストセラー作家や、広告代理店の大物が顧客に名を連ねているという。

私も何度か買おうとしたのだが、買うための条件が厳しく断念した。
いつかは手にしたいと思っているが、未だ叶わずにいる。

なにしろ、〆切の一ヶ月以上前にしか処方できないというのだから。
ファンタジー
公開:23/03/14 16:49

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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