トリップコーヒー

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喫茶店に入ると、賑やかな声と色々なにおいがした。が、店内に人は少ない。はたしてこれは……?
「マスター、あの……」
カフェモカを注文しようと思っていたのに、店の雰囲気に驚いて、忘れてしまった。するとマスターは不敵に笑んで、「おまかせですね」と。
「え……はい」
思わず頷く。なんだろう?この、空気に流される感じ。
しばらく待っていたが、なかなか注文の品が来ない。代わりに耳慣れた声が聞こえ、懐かしいようなにおいが漂ってきた。どうしてか、私の注文品だとわかった。
「これは、霧島の温泉のにおい、あ!これは、どこだっけ?なんとかドームの喧騒……」
 頭の中に、今まで旅した場所が浮かんでは消える。これはいったい……?
「トリップコーヒーです」
「トリップコーヒー?」
「ええ。お客様の旅の思い出を見させるのです。喫茶店にいる、ほんの短い間」

束の間の休息。今日もまた、私は雑踏の中に戻っていく。
 
公開:23/03/02 08:43

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