仮想木陰

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朝オフィスに着くと、デスク横に身の丈ほどの液晶モニタが置かれていた。
画面には、膝の高さほどの木が映っている。
同僚に聞くと、植物があると心が安らぐので、総務が置いたとのことだった。

椅子に座ると、視界の端に緑がある。意外に悪くなかった。

木は、少しずつ成長していった。
水も肥料も不要だ。デジタルだから当然なのだけれど。
本物の木よりも速い速度で、一日ごとに伸びていく。
程なくして画面いっぱいの高さになり、枝がさわさわと心地よい音を立てるようになった。

休憩時間には、木の周りに人が集まる。
植物があるのもいいな、と思いはじめていた。

ところが。
ある朝出社すると、モニタの中の木が枯れていた!
そんなバカな。

何があったかと聞いて回ると、昨日の深夜に停電があったという。
水をやらなくてもいいデジタル植物だったが、電気がなくては生きていけないのだった。
ファンタジー
公開:23/02/17 09:41
更新:23/02/17 09:42

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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