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俺は昔からとくべつ鼻が良かった。どんなに匂いに塗れた雑踏の中でも、目的の匂いを嗅ぎつけ、その匂いの元や人を探し当てることができた。だから待ち合わせにも便利だった。
 ある日、電車に乗った俺は、ある女性に一目惚れした。香りも上品な、自分より少し大人かな、くらいの女性だった。見苦しい気もしたが、俺は彼女に存在をアピールした。微笑み、からのウィンク。女性は最初は不思議そうにしていたが、だんだんと気持ち悪がっているのが、その表情からわかった。
 やりすぎたか、と思っていた俺は、ハッと振り返った。彼女と同じ香りが、別方向からも流れてきたのだ。
「ああ、そういうことね……」
 匂いの元は、男だった。男は俺の愛しい人に近寄り、俺の愛しい人は男にべったりくっつき、何か男に囁きながら、俺を睨んでいた。俺と彼女が付き合える確率は、0%らしかった。
公開:23/05/03 16:48
更新:23/05/03 17:03

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