猫のタビ

黒い体に手足の白い猫だからタビと呼んでいた。
タビは時々姿を消すと何日か後に家に戻って来る。こないだは体に桜の花びらが付いていた。でもこの辺ではもう桜の季節は終わっている。
去年は冬に蝉を咥えて来た。夏に雪まみれな事もあった。
ある日テレビを観ているとタビに似た猫が映った。南の離島の台風情報だった。
まさかタビの筈は無いと思っていると、びしょ濡れで帰って来た。
そうかと思うと、北の紅葉の初観測の放送があった直後に真っ赤な葉を頭に乗せて帰って来る。
どうも人間には分からない道を通ってタビは各地を旅している様だ。
やがて海外の猫特集番組や人工衛星の打ち上げ中継でも、タビの姿を見る様になった。一体タビはどこまで旅をしているのか。
たまに帰って来て、今回は妙に長いこと家に居るなと思うと、押し入れの奥で何かゴソゴソとしている。タビが留守の間に中を覗いてみた。そこには山の様なマタタビの葉っぱがあった。