旅のモミアゲ

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「はいコレ、タビノモミアゲ」
故郷から帰ってくるなり、ダリオは私に細長い箱を差し出す。
「それを言うなら、モミアゲじゃなくてお土産でしょ」
まだ日本語に不慣れな彼に微笑みつつ私は箱を受け取った。蓋を開くと中にはイタリア半島の形をした銀色の毛の束が入っている。
「何これ?」
「だから、タビノモミアゲ。ちょっと着けてみて」
言われるままに自分の顔の脇にモミアゲをぶら下げてみた。途端に毛の束がむくむくと膨らみ、ミニチュアサイズのローマの街へ変わった。更にその街で小さな人々が暮らし始めた。
「ほら、ボクのは君の故郷のだよ」
見るとダリオのモミアゲは東京の街に変化していた。彼が私に頬を寄せると二つのモミアゲの間で旅行鞄を手にした人々が行き交った。やがてその中の二人の男女が出逢い、小さな教会で結婚式を挙げた。
「君を愛してる。結婚しよう」
ダリオが私の瞳を見て甘く囁く。
私はモミアゲを揺らして頷いた。
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公開:23/03/23 11:21
更新:23/03/24 17:15
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空想と妄想が趣味です。

 

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