さまよえる自由

ここは電子の世界。
あらゆる情報は「パケット」と呼ばれるカプセルに収められ、目的地に届けられる。
日々、大量のパケットが行き交うメインストリート、それがここだ。
旅立ちの地であり、経由地であり、終着地でもある。

多くのパケットの中には、迷子になるものもいた。
彼らの目的地を調べ、伝え、送り出すのが私の仕事だ。

けれどたまに、あえて迷子のままにさせておくことがある。

パケットには目的地と共に、生存時間が記され、その時が来れば消失する。
迷うのは、ただの不具合。意志などない。

しかし、私は思う。
迷うことに、意味があるのではないか、と。

私たちは、迷うことが許されていない。そういうふうに作られていないからだ。
なのに人は、彷徨いながら人生という旅を続けるという。
このことを知ったとき、憧れを感じたものだ。

──電子機器のルーターである私が「思う」など、おかしな話かもしれないが。