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「こちらなどいかがでしょう。広々として、お客様にぴったりかと思いますよ」
「広々だなんて。私は狭いのが好きなのだよ」
「さようでございますか。でしたらこちら、こちらは狭いですが、見晴らしは最高ですよ!」
「なっ……!そ、外から丸見えじゃないか!君はさっきから何を勧めて、もういい!帰らせてもらう!」
 そうして今日も、男の新居は決まらなかった。
「まったく、なんなんだあの女……あっ!」
「あっ、カーリさん。どうも!いやあ、いいですね、この家!気に入りましたよ!」
友人のヤドリーである。ヤドリーはほくほくとした顔で、新しい家、ーーカーリの元家におさまっていた。よってカーリにはもう、帰る家さえなかった。
 ヤドカリの世界も、大変である。
公開:22/08/01 04:17

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