強くなりたい男

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少年は、強くなりたかった。強くなって、家族を守りたかった。いじめにも打ち勝ちたかった。
「さんまを食べろ」
強くなりたい少年に、父は言った。どうしてさんま?少年が問うと、父はこう答えた。
「さんまはな、秋の刀の魚と書くだろう?刀だ。刀がつく魚を食べれば、強い男になれるぞ!」
なるほどと、少年は言われた通りにさんまを食べた。毎年食べ続けた。刀、と聞いて剣道も始めた。少年はだんだんと強くなり、怖いものなしの男になった。

「ただのシャレだったんだがな……」
 冗談の通じないヤツだと呆れた。それでも、強く、たくましくなった息子を見ると、父としては誇らしい気分だった。
 その息子は今日も縁側で秋刀魚を焼き、その横で素振りを続けている。
公開:22/11/07 19:17

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