いぶし銀
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祖父が亡くなった。出棺の時、まるで周囲の嗚咽をかき消すように歌い出したのは、祖父の息子、私の父である。歌は、祖父が好きな演歌だった。けっしてうまいとは言えなかった。しかしおそらく、心はこもっていたのだろう。そう思ったのは、数日後、ある噂が流れたからであった。
「近くの公園に、演歌を歌う幽霊が出る」
幽霊を信じているわけではなかった。けれど野次馬根性で、私たち家族はこぞって幽霊を見に行った。
「演歌だ」
公園に着く前に、父が言った。なるほど耳を澄ませると、たしかに演歌が聞こえる。しかもうまい。
「そーっと。そーっとな」
なぜかそう指示され、私ははやる気持ちを抑え、柱の影に隠れて公園の中を覗いた。はたしてそれは、祖父だった。
「お義父さん、歌下手じゃなかったっけ?」
母が言うと、父が返した。
「燻されたんだよ、きっと。出棺の時にさ。ほら、言うだろう?『いぶし銀の演歌歌手』って」
「近くの公園に、演歌を歌う幽霊が出る」
幽霊を信じているわけではなかった。けれど野次馬根性で、私たち家族はこぞって幽霊を見に行った。
「演歌だ」
公園に着く前に、父が言った。なるほど耳を澄ませると、たしかに演歌が聞こえる。しかもうまい。
「そーっと。そーっとな」
なぜかそう指示され、私ははやる気持ちを抑え、柱の影に隠れて公園の中を覗いた。はたしてそれは、祖父だった。
「お義父さん、歌下手じゃなかったっけ?」
母が言うと、父が返した。
「燻されたんだよ、きっと。出棺の時にさ。ほら、言うだろう?『いぶし銀の演歌歌手』って」
公開:22/11/02 05:28
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便乗w
音声燻製
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