忘れな帳

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会社の私のデスクに、一冊のノートが置かれている。
見た目は青い表紙の、ごく普通のノートだ。
ただし、「書いたこと」を、綺麗さっぱり忘れられる。

嫌なことほど、理性では分かっていても、何度も頭の中で繰り返される。
そんな時に、ノートに忘れたいことや気持ちを書き、ぱたんと閉じるのだ。
すると、そのできごとは記憶から消え、すっきりした気分で仕事ができる。

ある朝、出社したら同僚の視線がおかしい。
自分の席につき、隣の同僚に話しかけると、「あなたは誰?」と聞かれた。
冗談にしてはきついなと返すが、同僚は私を見て、警察を呼んだ。
この会社の社員だ、とどんなに説明しても、誰も知らないという。

その時、私は気づいた。
机の上に広げられたノートに、電話のメモが書かれていた。
そこには、電話の内容とともに、私の名前が書かれていたのだ。
ファンタジー
公開:22/10/26 09:44

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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